EMC ノイズ対策レポート

暮らしにかかわるEMC ~電磁波ノイズ対策~

私たちのまわりにはテレビや電子レンジをはじめ多くの電子機器製品があります。 一方、そのような製品を生産する工場などの産業分野、鉄道や物流などの交通輸送機関、銀行や証券取引のような金融機関など、様々な分野においても電子機器装置が活躍しています。 これら電子機器のおかげで、私たちの豊かな暮らしが成り立っているといっても過言ではありません。
このように電子機器が生活や社会インフラに深く関わるようになると、万一電子機器が正常に働かなくなった場合には大きな損害が発生します。 電子機器が増え始めた1980年代には冬場にコンピュータが止まってしまう、工場のロボットが誤動作して事故が起きるといった現象が出始め、新聞記事になりました。 研究者が原因を調べてみると「静電気」や「電磁波」が異常を起こす犯人だったことがわかったのです。 つまり電磁気的な妨害がコンピュータや電子機器に悪影響を与えることが明らかになってきました。 そこで、このような妨害について研究および評価をするEMCという分野ができました。 「EMC」とはElectromagnetic Compatibilityを略した用語で、日本語に訳しますと「電磁両立性」になります。
近年は電子機器への依存度が非常に高まってきており、EMCは今まで以上に重要視されています。 自動車を例に挙げますと、カーナビゲーション、スマートエントリーシステム、デジタル計器やエンジン制御などの数多くの電子制御回路が搭載されています。 電気自動車では動力も電気エネルギーから得ています。 パワー系やブレーキシステム等の異常は直ちに安全を脅かしますので、カーエレクトロニクスの分野においてはEMCの安全性をより高める必要があります。 EMCに問題が無いか各社において様々な評価が行われています。 このような努力によって私たちの安全で豊かな暮らしが実現しているのです。

電気自動車のEMC問題の例
電気自動車のEMC問題の例

EMC試験 ~電磁波の妨害~

電子機器装置が電磁的に安全かどうかを調べるには、実際の機器装置を試験して性能を確認しなくてはなりません。 EMCの試験は「電子機器がどれだけ電磁的な妨害を発生しているか?」と「電子機器がどれだけ電磁的な妨害に耐えられるか?」という2つの観点から行います。 要するに電子機器は加害者にも被害者にもならないような性能が求められているわけです。 妨害の発生を調べる方はEMI(Electromagnetic Interference)と呼ばれます。 単に「エミッション」と称されることもあります。 一方、妨害の耐性を調べる方はEMS(Electromagnetic Susceptibility)と呼ばれ、こちらは「イミュニティ」と称されることもあります。 このようにEMIとEMSの両方を成り立たせる必要があることから総称としてEMC(電磁両立性)と言われているのです。

EMCの試験ですが測定方法や基準値が国際規格によって定められています。 EMIの一つである放射妨害波は電波暗室という大きな部屋の中で測定します。 電波暗室は室外からの電磁波を遮断するとともに天井や壁面は電磁波を吸収するように作られています。 また、EMSの試験では妨害が自然に発生するのを待つわけにはいかないので、雷サージ試験器のような人工的に妨害を作り出す装置を使用します。 いずれにしてもEMC試験をするためには規格に適合した試験設備が必要となります。 「基準に満たない商品を市場に流通させてはいけない」という規制が各国地域において制定されており、それに該当する品目はEMC試験に合格しなければ商品として販売することができません。 いかに素早く安価にEMCの基準をクリアできるかがエンジニアの腕の見せどころでもあると言えます。

電波暗室の例(群馬県立東毛産業技術センター)
電波暗室の例(群馬県立東毛産業技術センター)
雷サージは落雷によって発生
雷サージは落雷によって発生

ノイズ迎撃!! ~EMIテスタ~

放射妨害波(EMI)の試験は電波暗室内に電子機器を置き、そこから発生する電磁波の強さを測定します。 そして規格で定められた限度値を超えていなければ合格となります。 図1はある電子機器をEMI試験した結果です。赤色の線が限度値です。 なんと、大幅に限度値を超えてしまっています!これはいけません。

EMI試験結果
図1 EMI試験結果

このようにEMI試験をして、もし不合格になってしまったら・・・。
なんとかして合格させなくては商品として出荷ができません。 限度値を超えてしまった電磁波の強度を下げなくてはならないのです。 ところが、これがとても厄介な作業なのです。 もし電磁波が目に見えれば、電子機器のどの部分で発生してどこから飛び出しているかがすぐにわかります。 しかし、電磁波は目に見えないため、どこに原因があるかを捉えることが難しいのです。 原因がよくわからないまま、やみくもに対策作業をおこなうと、さらに深みにはまってしまうことになります。 ノイズ対策の第一歩は、ノイズの原因をはっきりさせることです。

EMIテスタ測定結果
図2 EMIテスタ測定結果

では、目に見えない電磁波をどうやって捉えたらよいのでしょうか。 そのためのツールがEMIテスタです。 EMIテスタは電子機器の回路基板の近傍を小さなプローブで走査し、ノイズの場所を探ります。イメージで例えれば、お医者さんが聴診器で胸の音を聞くようなものです。そして、EMIテスタでは分布図としてノイズの場所をパソコンの画面に表示します。ノイズの可視化により、エンジニアはどの部分にノイズがあるかを知ることができます。
先ほどのEMI試験で不合格になった電子機器の基板をEMIテスタで調べた結果が図2です。 赤色の部分がノイズのある場所です。ICの上から周囲の部品にかけてノイズがあることが解ります。あとはこのノイズを低減するか閉じ込めるか。各々の電子機器に適した手法で対策を施します。対策後に再びEMIテスタで測定をおこなえば、効果があったかどうかを把握することもできます。このようにEMIテスタを用いてノイズを可視化するとノイズ対策の効率が格段にアップします。

イントラシステムEMCの例
図3 イントラシステムEMCの例


ところで、最近増えてきているEMIテスタの活用シーンを紹介します。
凄まじい勢いで普及が進むスマートフォンは様々な機能を持っています。 電話機能はもちろん、テレビ、ラジオ、Webブラウザ、カメラ、コンパス、赤外線通信、加速度計、GPS、無線LAN、Bluetoothなど、もはや出来ないことはないのではないかと思わせるくらい充実しています。 このような多機能化はユーザーにとっては大変便利です。しかし、小さなスマートフォンの内部には電源回路、アンテナ、センサー、カメラ、制御回路、各機能の半導体、液晶表示器やタッチパネルなどがところ狭ましと詰め込まれる状況になっています。そうするとお互いの部品どうしがすごく近くなって、スマートフォンの内部で前述のEMIとEMSが同時に発生することになります。 図3のように自分がノイズを発生して、自分自身が妨害を受けておかしくなってしまう現象が起きることがあります。このような現象はイントラシステムEMC(または自家中毒)と呼ばれ、注目されています。 イントラシステムEMCの対策は、やはりノイズの発生源を解明して、ノイズの伝達経路や結合を調べることから始まります。 この用途にはEMIテスタが最適です。最新のスマートフォンの開発にもEMIテスタが活躍しています。

最後に

EMCについて述べさせていただきました。EMCは専門的な面があり、少し難しく感じたかもしれません。ペリテックではEMIテスタ(EMV-200、EMV-100等)のデモ機を用意しております。 また、ノイズ評価や対策の相談等も承りますのでお気軽にお問い合わせいただけましたら幸いです。