業界初EtherCAT対応の新エネルギー分野向け多チャンネルリチウムバッテリエミュレータの開発

平成24年度「ものづくり中小企業・小規模事業者試作開発等支援」で開発した「多チャンネルリチウムバッテリエミュレータ」を紹介します。

概要

次世代型パワーユニット最有力候補のリチウムイオン2次電池をほぼ完全に模擬でき、その制御通信には高度化技術であるEtherCAT通信プロトコルを採用したニッチながら業界初の電池模擬装置を開発する。

開発の背景

ハイブリッドカーを中心に、家庭用から、そして最新機ボーイング787に見るように航空機にも2次電池として採用が急速に進んでいる大容量リチウムイオン電池がある。しかしながら、その取扱いは非常に難しく、多くの技術要素がその安全性に寄与している。その技術要素の一つにBMS(Battery Management System) – 電池管理システムがある。BMSは、積層されたリチウム電池の電圧を常時監視し、その状態を上位やほかの制御装置に伝達する手段を擁しており、リチウムイオンバッテリには必須のシステムである。つまり、リチウムイオン電池を採用する限りは必ず搭載されているものである。そのBMSの開発から生産に至るまで、その実験評価及び検査においては積層されたリチウム電池自体、若しくはそれに代わるバッテリエミュレータ(注1)が必要となる。しかしながら、実際、開発コスト低減化とさまざまなシーンを模擬した複雑な電池の電圧変動パターンを簡単に再現できるバッテリエミュレータの採用がほとんどを占めつつあり、低コストで、迅速、かつより安全な電池システムを構築する必要性が高まってきた。

更に、現在のB787の問題(注2)は、リチウムイオンバッテリそのものではなく、BMSの問題の指摘も出ている。

今後は、より多くのリチウムイオンバッテリシステムが増えるにつれてそのBMSの安全・信頼性向上と低下価格化がリチウムイオンバッテリメーカーの生き残りのカギとなる可能性がある。

  • (注1).エミュレータとは、実際の物の特性を回路やソフトウエアにより模擬・模倣するシステム。
  • (注2).ボーイング社B787では、油圧系の制御から電気系の制御に大変更が加えられており、その電力供給にリチウムバッテリーが採用されている。しかしながら、2013年初頭よりそのバッテリーを監視・制御するシステムに問題があるとされ、その運行がすべてストップされている。

リチウムイオンバッテリはその運用を間違うと膨張・火災・爆発の危険を伴う。そのバッテリの各セルの電圧状態は確実に監視しておく必要がある。その役目をBMSが担う。

膨張・火災・爆発の危険

バッテリ電圧変動例

ハイブリッドカー等でアクセルを踏んだ際には多くの電流が流れるため一時的に電圧が降下する。また、充電が必要なときはその時のバッテリ電圧より高い電圧で充電を行う必要がある。そういった挙動をエミュレータが再現してくれる。

バッテリ電圧変動例

事業の成果と将来の展望

日本国内のみならず、多くの自動車メーカーはハイブリッドカーまたは電気自動車の開発に対する投資は年々増す勢いがある。それは、前出のBMSがより高性能でより大量に生産する必要性がすでに起きてきている。本事業の成果である電池エミュレータは、その性能として、リチウムイオンバッテリを十分にエミュレート(模擬)出来るよう1chあたり0-5VDCを1mV単位で最大192chまで完全に同期の取れた設定及び読み取りが可能である。そして本事業の成果で最大の売りとなるのは、その通信インターフェースにEtherCATを採用することで、全世界の自動車メーカーを中心にして、あらゆるBMS製造メーカーにアプローチすることが出来る。EtherCATは超高速なリアルタイム性の高いEthernetベースの工業用プロトコルで、日本でも多くの制御装置メーカーで採用が進んでおり、その採用効果は、その性能面だけでなく、社内での製造コストの大幅な低減、そして、自動的に世界規模のEhterCATグループ等を通じて宣伝効果も得られるというメリットもある。

<従来方式> <エミュレータ方式>
本物のリチウムバッテリでBMS評価・生産テスト エミュレータによるBMS評価・生産テスト
  • 実験失敗による発火・爆発
  • 重い
  • 充放電のパターンの再現性が低い
  • コストが高すぎる
  • 劣化による変化
  • 安全対策が打ちやすい
  • 充放電のパターンを完全再現
  • 安価
  • 経年変化はほとんどない(校正可能)
  • 持ち運びも簡単
  • 消費電力も低くエコロジー
  • EtherCATによる容易な通信制御と接続性

複数チャンネル電源でのEtherCAT採用は業界初

現在、リチウムイオンバッテリエミュレータはドイツメーカーを中心に非常に高額なシステムとしてまだ競合が少ないという点で、競争がほとんど発生していない状況が続いている。そういった中、本事業の成果としては、性能面では、前述の完全同期の取れた192chにも関わらず、他社価格の2/3を余裕で下回る価格設定を十分可能とする。
下に提示しているデータであるが、競合他社はこのようにたくさんのチャンネルを完全同期するエミュレータはあってもものすごく高額であり、また比較的安価なものは50ch以上では同期が取れないという現状がある。本事業の成果物は、完全同期が実現でき、通信もEtherCATでの高速、かつ、価格はそれらを大幅に下回ることになる。

リチウムイオンバッテリエミュレータ