PXIインターフェースBOX設計ガイド
目次
- 第1章 はじめに:強電設計と計測SI設計の違い
- 第2章 PXIシステムとインターフェースBOXの役割
- 第3章 構成図:システム全体を一枚で伝える
- 第4章 I/O一覧表:信号情報の一元管理
- 第5章 コネクタ設計:選定とピンアサイン
- 第6章 ハーネス設計:ケーブル製造のための図面
- 第7章 Relay / Switch設計:信号の切替と分配
- 第8章 基板設計:内部実装の考え方
- 第9章 GND・シールド設計:ノイズ対策の基本
- 第10章 ラック設計:筐体と現場運用
- 第11章 検査:品質を確認する4つの段階
- 第12章 ドキュメント:設計と運用をつなぐ
- 第13章 おわりに:計測SIエンジニアに求められる視点
1. はじめに:強電設計と計測SI設計の違い
試験・計測システムの SI 設計は、一般的な電気製図とは異なる専門領域です。制御盤・リレーシーケンス・受配電を主題とする強電設計と、計測 SI 設計とでは、扱う物理量も求められる品質も根本的に異なります。
| 比較軸 | 強電設計 | 計測SI設計 |
|---|---|---|
| 扱う信号 | AC100~440V/数Aから数十A | μV~数V/nA~数A |
| 求められる品質 | 動作確実性・安全性 | 測定精度・再現性・トレーサビリティ |
| ノイズ観点 | 大きな裕度がある | 数mVのノイズが直接誤差になる |
| 設計の合格基準 | 「動く」 | 「常に同じ精度で測れる」 |
本稿のキーメッセージ
PXI インターフェースBOXは単なるコネクタ変換箱ではありません。精度・保護・保守性を統合する機能ブロックです。設計の合格基準:「動く」ではなく「常に同じ精度で測れる」。この一文が、本書全体の出発点となります。
ポイント
- 計測SI設計は「動く」ではなく「正確に・繰返し測れる」が合格基準。
- インターフェースBOXはシステム精度の要であり、誤差源にしてはならない。
2. PXIシステムとインターフェースBOXの役割

2-1. PXI規格の概要
PXI(PCI eXtensions for Instrumentation)は、PXISA が策定した計測・自動試験用のモジュラープラットフォーム規格です。CompactPCI をベースに、計測専用のトリガバス・参照クロック・ローカルバスを追加した点が特徴で、複数モジュールが「同じ瞬間」を共有して同期動作できます。
2-2. PXI シャーシとモジュール選定
PXI シャーシは複数のベンダーから提供されており、案件の要件(スロット数・帯域・コスト・ソフトウェア互換性)に応じて選定します。代表的なベンダーとしてはNI・Keysight 等が挙げられる。シャーシ選定の主な観点を以下に示します。
- スロット数・バス規格(PXI/PXIe Gen2/Gen3):測定チャネル数とデータ転送速度
- タイミング・トリガ:バックプレーン上の共有クロック・トリガバスの仕様
- ソフトウェア互換性:使用する開発環境(LabVIEW / TestStand等)との動作検証
- コスト・サポート体制:保守部品の入手性と長期サポート期間
2-3. 典型的なシステム構成
PXI シャーシには複数の計測モジュールがスロット単位で実装されます。各モジュールはバックプレーンを介して連携し、ひとつのアプリケーションから統合的に制御されます。

2-4. インタ―フェースBOXの6つの役割
外部DUTとPXIシステムを接続するインターフェースBOXは、以下の6役割を統合的に担います。
| 役割 | 内容 | 設計上のポイント |
|---|---|---|
| 信号変換 | コネクタ形状の変換 | BNC↔SMA、D-SUB↔MIL等、PXIモジュール側とDUT側の整合 |
| 保護 | 過電圧・ESD・過電流 | 高価なPXIモジュールをDUT故障から守る。フューズ・TVS必須 |
| 分配 | 信号の分岐・合成 | 1ch SMUを複数ピンへ、共通GNDリファレンスの配布 |
| 切替 | Relay/Switch | 多チャネル・シーケンシャル測定の実現 |
| 保守 | コネクタ・治具の交換容易化 | DUT品種変更時の段取り短縮 |
| 安全 | FG/GND設計・絶縁 | 作業者保護、シャーシ間電位差吸収 |
BOXは高価なPXIモジュールを守る「盾」である
PXIモジュールは1スロット数十万円〜数百万円。一方、BOX内のRelayや治具コネクタは摩耗・劣化する消耗品である。
「BOX側で故障を受け止め、PXIモジュールを守る」という設計思想を持つこと。フューズや過電圧保護素子(TVS)は積極的に組み込むべきだ。
ポイント
- PXIは複数モジュールがトリガバスと参照クロックを共有し「同じ瞬間」で同期動作する統合計測プラットフォーム。
- インターフェースBOXは変換・保護・分配・切替・保守・安全の6役割を担う「盾」である。
3. 構成図:システム全体を一枚で伝える

構成図は提案から保守まで全フェーズで参照される最重要ドキュメントです。「5 分で全体像が伝わるか」が品質基準です。
構成図が使われる場面
| フェーズ | 用途 | 誰が読むか |
|---|---|---|
| 提案 | 顧客への概念伝達、見積根拠の説明 | 営業/顧客/自社設計 |
| 設計 | 詳細設計の基準、I/O表との整合性確認 | 電気設計/ソフト設計 |
| 製造 | 配線・組立指示の参照元 | ハーネス業者/組立担当 |
| 保守 | 障害時の経路追跡 | 現場SE/保守担当 |
良い構成図の条件
- 信号方向を矢印で明示する
- コネクタ型番・ケーブル識別名(CBL-001等)を記載する
- 電源系・信号系・GND 系を色または線種で区別する
- シャーシ/スロット番号を記載しI/O 表と相互参照できるようにする
よくある失敗
- 線が密集し信号種別が追えない
- GND経路が全く記載されていない
- 接続先が「TBD」のまま放置されている
ポイント
- 構成図は提案~保守まで全フェーズで参照される最重要文書
- 矢印・コネクタ型番・ケーブル名・GND経路・スロット番号は必須記載
- 「5分で全体像が伝わるか」を自分の図面で常に確認する
4. I/O一覧表:信号情報の一元管理
I/O一覧表は、設計・立ち上げ・保守・改造のすべての工程で参照される「唯一の正式情報源(Single Source of Truth)」です。変更が生じたら必ずここを更新します。
I/O一覧表の記載例
| Signal | PXI Port | Connector | Pin | Range | Note |
| AI0+ | Slot2 DMM | J1 | 1 | ±10V | 差動正極・シールド |
| AI0− | Slot2 DMM | J1 | 2 | — | 差動負極・AGND |
| DO0 | Slot3 DAQ | J2 | 5 | 24V/100mA | Relay駆動・還流ダイオード付 |
| SMU0_HI | Slot4 SMU | Triax-A | — | ±60V/±1A | Guard配線必須 |
| RF_IN | Slot5 VST | SMA1 | — | DC〜6GHz | 50Ω・締付トルク管理 |
3つの必須記載項目
- Range(レンジ):最大値ではなく「実際の動作レンジ」を記載する
- Note(備考):差動/シングルエンドの別、シールド情報を必ず記載
- Impedance(インピーダンス):RFや高速信号では必須(例:50Ω、締付トルク管理)
PXI側とDUT側を1つの表に統合する
PXI側(Controller view)とDUT側(Customer view)を1つの表に統合することで設計レビューが劇的に効率化します。列構成は「PXI側コネクタ/内部結線/DUT側コネクタ/DUTピン名」の4段が読みやすいです。
ポイント
- I/O表は計測SI全工程の唯一の正式情報源。変更後は必ずここに反映する
- Range・Note・Impedanceの3項目を漏らさず記載
- PXI側とDUT側を1つの表に統合してレビュー効率を上げる
- GND系統と保護素子(TVS・フューズ)の有無も記載しておく
5. コネクタ設計:選定とピンアサイン
コネクタは帯域・信頼性・コスト・保守性の4軸で選定します。用途に応じた適切な選択がエンジニアの腕の見せ所です。
コネクタ選定マトリクス
| コネクタ | 主な用途 | 帯域 | 選定のポイント |
|---|---|---|---|
| D-SUB | 汎用I/O | DC~数MHz | 安価・実績豊富 |
| MIL(38999等) | 多ピン・車載・航空 | DC~数百MHz | 耐振・防水、航空宇宙/防衛分野で標準 |
| BNC | 計測・オシロ接続 | DC~数百MHz | 50Ω/75Ωを混在させない |
| SMA | RF信号 | DC~18MHz | 締付トルク0.9N・m厳守 |
| LEMO | 高信頼・医療 | DC~GHz | プッシュプル・ESD強。高価 |
| Triax | SMU・低リーク | DC~MHz | Guard構造。pAオーダ測定で必須 |
ピンアサインの原則
計測用途では、信号の種類(アナログ/デジタル/電源/GND/シールド)を明確に分離してピンを割り当てます。

D-SUB 9pin 計測用例
1: AI0+ (差動正極)
2: AI0− (差動負極)
3: AGND (アナログGND)
4: DO0 (デジタル出力 24V)
5: DI0 (デジタル入力)
6: +24V (補助電源)
7: DGND (デジタルGND)
8: RSV (予備)
9: Shield(シェル → FG)
NG設計
- GNDを1ピンに集中させ複数信号で共有 → リターン電流混在でクロストーク
- 高電圧とmVオーダ信号を隣接ピンに配置 → リーク・サージで誤動作
- 予備ピンを確保しない → 仕様変更で再設計が必要になる
ポイント
- コネクタは帯域・信頼性・コスト・保守性の4軸で選定
- 差動ペアは隣接配置・GNDで挟む
- 予備ピンは10〜20%確保する
6. ハーネス設計:ケーブル製造のための図面

ハーネス図は「物理的な実体」を表す製造図面です。構成図・I/O表という「論理の世界」を、実際に製造・組み立てできる「形」に変換する最終工程です。
ハーネス図の記載内容
| 記載項目 | 内容 | 備考 |
|---|---|---|
| ケーブル型番 | UL1007 AWG24 等 | 電線メーカー・規格を明示 |
| 長さ | 500mm ±10mm | 公差を必ず記載 |
| 圧着端子 | メーカー型番 | 圧着工具の指定も含む |
| シールド処理 | 両端/片側接地・ピグテール長 | ノイズ設計の要 |
| ラベル | CBL-001・信号系統色 | 保守時の識別 |
| 撚り対 | 対撚り/非撚り | 差動信号は必ず撚り対 |
設計チェック4点
- 曲げ半径:外径×5倍以上(RFケーブルは×10倍以上)
- 引張:自重でコネクタに荷重がかからないようサドルで固定
- ノイズ:強電と弱電の平行走行を避け、交差は90°で
- メンテ性:交換頻度の高いケーブルは工具不要で外せる構造に
ポイント
- ハーネス図には型番・長さ・公差・シールド処理・ラベルをすべて記載
- 曲げ半径・引張・ノイズ・メンテ性は設計レビューの必須チェック項目
- ピグテール長すぎ・ケーブル余長ループ・RFケーブル直角折り曲げは現場の典型的NG
7. Relay / Switch設計:信号の切替と分配

PXIシステムでは、限られた計測モジュールを多数のDUTピン・複数DUT個体に切り替えて使います。この切替を担うのがRelay / Switchです。
7-1. 構成パターン
代表的な構成は「Multiplexer(1対N)」と「Matrix(N対M)」に大別されます。Matrixは各交点に独立リレーを配置し、測定器とDUTの任意の組み合わせを実現します。
7-2. Relay選定軸
| 選定項目 | 確認内容 | 計測SI上の影響 |
|---|---|---|
| 定格電圧 | 最大印加電圧(AC/DC) | 絶縁破壊・安全性 |
| 定格電流 | 最大連続/突入電流 | 接点溶着・寿命激減 |
| 寿命 | 電気寿命(負荷あり) | メンテ周期・コスト |
| 接触抵抗 | 初期値と経時変化 | DC測定精度に直結 |
| 帯域 | −3dB帯域・絶縁特性 | RF測定で特に重要 |
| 熱起電力 | 数μV以下のもの | 微小電圧測定の誤差源 |
リレー種別の使い分け
| 種別 | 特性 | 主な用途 |
|---|---|---|
| リードリレー(Reed) | 低熱起電力・高速・長寿命 | 微小信号〜中速デジタル |
| メカリレー(Mechanical) | 大電力・低コスト | 電源切替・高電圧 |
| SSR(Solid State) | 無接点・超長寿命 | リーク電流とON抵抗に注意 |
見落としやすい落とし穴
- 接点の熱起電力がDC精度測定に直接乗る(μVオーダで効く)
- 高電圧とmVオーダ信号を隣接ピンに配置 → リーク・サージで誤動作
- 予備ピンを確保しない → 仕様変更で再設計が必要になる
ポイント
- Relay選定は電圧・電流・寿命・接触抵抗・帯域・熱起電力の6軸で行う
- 切替後のSettling timeをシーケンスに必ず織り込むこと
8. 基板設計:内部実装の考え方
インターフェース BOX の内部は、コネクタ・端子台・Relay・保護素子をプリント基板(PCB)上に実装する構成が一般的です。基板の設計品質は計測精度に影響することがあります。
信号フローの基本構成
基板上の信号は、DUT 側から入力した信号が ①端子入力→②保護回路→③Relay/Switch→④信号調整回路→⑤PXI 側コネクタ の順に流れる基本構成となっています。

8-1. 層構成の考え方
| 層構成 | 向いている用途 | コメント |
|---|---|---|
| 2 層基板 | 低周波・少チャネル・試作 | コスト・納期面で有利。信号が複雑になると混雑しやすい |
| 4 層基板 | 汎用計測BOX全般 | 内層に GND と電源を確保しやすく、バランスが取りやすい |
| 6 層以上 | RF・高速差動・多チャネル | 設計自由度が高い分、設計工数とコストが増える |
どの層数が適切かは案件ごとに異なります。基板メーカーや回路設計者と早めに相談することをお勧めします。
8-2. 保護素子の実装
インターフェース BOX の役割のひとつは「PXI モジュールを保護する」ことです。基板上に適切な保護素子を配置することで、DUT 側の異常が PXI モジュールに波及するリスクを下げられます。
代表的な素子を以下に示します。
| 素子 | 向いている用途 | コメント |
|---|---|---|
| TVSダイオード | ESD・サージ保護 | クランプ電圧と寄生容量をスペックに合わせて選ぶ |
| ポリスイッチ(PTC) | 過電流保護(自動復帰型) | 復帰時間と定格電流を確認 |
| フューズ | 過電流保護(交換型) | ヒューズ交換の容易さも設計に織り込む |
| コモンモードチョーク | コモンモードノイズ抑制 | 差動信号系に有効 |
8-3. 製造・保守を見越した工夫
基板は設計が完成品ではなく、製造・実装・検査・保守まで続きます。以下の点を設計段階で意識しておくと、後工程がスムーズになることが多いです。
- 部品番号・極性マークをシルク印刷しておくと、組立や修理のときに迷いが減る
- 主要な電源ラインや信号ラインにテストポイントを設けると、立上げ・デバッグが楽になる
- 基板のRev.番号と製造時期をシルクやマーキングで残しておくと、現場でのトラブル対応に役立つ
- 回路図・BOM・ガーバーデータはセットで管理し、変更履歴を残す習慣をつけておくとよい
ポイント
- 基板の層数は、信号の複雑さ・コスト・納期を踏まえて選択する
- 部品配置や保護素子の設計は、案件の要件に応じて柔軟に判断する
- 製造・保守まで見越した工夫(テストポイント・シルク・リビジョン管理)が現場での安心につながる。
9. GND・シールド設計:ノイズ対策の基本
計測システムのノイズトラブルの大半はGND 設計に起因します。GNDを制する者が計測SI設計を制すると言っても過言ではありません。
9-1. GND 種類の整理
| 名称 | 役割 | 混在させてはいけない理由 |
|---|---|---|
| FG(Frame GND) | 筐体・シャーシ接地。EMC・安全 | 大電流が流れ信号GNDの電位が揺れる |
| AGND(Analog GND) | アナログ信号の基準電位 | DGND 由来のスイッチングノイズが混入 |
| DGND(Digital GND) | デジタル信号の帰路 | 大振幅の切替電流が微小信号に影響 |
| PE(保護接地) | 感電防止・漏電遮断基準 | FGと一点以外で接続すると電流ループ |
9-2. シールド接地の選択
| 対象信号 | 推奨処理 | 理由 |
|---|---|---|
| 高周波(>1MHz) | 両端接地 | 片端ではアンテナ化 |
| 低周波(<100kHz) | 片端接地(信号源側) | 両端接地はグラウンドループ形成 |
| 中周波帯 | 片端+コンデンサ | DC絶縁・AC接地の両立 |
9-3. 1-Point Star Ground(1点接地)

GND設計の実装戦術の中核が Star Ground です。AGND・DGND・FGをそれぞれ独立した経路で配線し、最終的に1点(Star Ground点)で合流させることで、信号系GNDへの他系統ノイズの混入を防ぎます。
Star Groundの実装ポイント
- AGND・DGND・FGを別経路で配線し、「Star Ground点」と呼ぶ唯一の共通ノードに集約する
- SMUのSenseとSGはDUT直下で1点接地
- PXIシャーシのFGはAC電源PEと一致させること
典型的なGND失敗
- 多点接地ループ:GNDをあちこちで筐体に落とし、ループ電流でハムノイズ発生
- FG/SG混在:信号GNDと筐体GNDが近接接続され、シャーシ電位差が信号に流入
- 大電流GND共有:モータ電流帰路と微小信号GNDが同バスバー → 電圧降下が誤差源に
ポイント
- GND種類(FG/AGND/DGND/PE)を区別し、回路図上でも明示して描く
- シールドは周波数で接地方法を変える(高周波両端、低周波片端)
- 1-Point Star Ground(1点接地)が計測SI設計の基本戦術
10. ラック設計:筐体と現場運用

ラック設計は「システムが現場で動き続けるための器」です。現場トラブルの多くはラック起因(発熱・配線・保守性)として顕在化します。
設計の主要チェック項目
| 設計項目 | 内容 | 落とし穴 |
|---|---|---|
| 重量配分 | 重機器(電源・UPS)は下段 | 上段が重いと転倒・耐震リスク |
| 発熱 | 排気方向の整合、ファン能力 | 熱だまりで精度ドリフト・装置寿命低下 |
| 保守性 | スライドレール・前後アクセス | 背面配線で裏に回れない構造は即アウト |
| 配線 | 信号(前面)/ 電源(背面)分離 | 並走するとノイズ混入 |
| 耐震 | アジャスタ+アンカー | 輸送・地震でコネクタ抜け |
| 拡張 | 1〜2U予備スペース確保 | 将来追加で再設計になる |
Human Factors(現場視点)のチェック
- 作業者が立って・しゃがんで実際にアクセスできるか?
- 緊急停止スイッチは立った位置から1秒以内に押せるか?
- 背面配線で裏に回れない構造は即アウト
- ケーブル交換用の工具スペースは確保されているか?
ポイント
- 重量・発熱・保守・配線・耐震・拡張の6項目を必ずチェック
- 図面ではなく「現場で人がどう動くか」視点で設計レビューを行う
11. 検査:品質を確認する4つの段階
インターフェース BOX は設計・製造の後、顧客現場に納入される前に検査を行います。検査は「作ったものが意図どおりか」を確認するだけでなく、後工程のトラブルを未然に防ぐための重要な工程でもあります。
インターフェース BOX に関わる検査は、大きく「製造段階の検査」と「システム立上げ時の検査」に分けて考えると整理しやすいです。
検査の4段階
| 段階 | 検査の目的 | 主な対象 |
|---|---|---|
| ①基板・ハーネス単体検査 | 製造不良を早期に発見 | ハンダ付け・断線・短絡・コネクタ接続 |
| ②BOX単体機能検査 | BOXとしての動作確認 | 各信号経路の導通・Relay 動作・保護回路 |
| ③システム結合検査 | PXI システムと DUT の接続確認 | 信号レベル・ノイズ・クロストーク・絶縁 |
| ④受け入れ検査(FAT) | 顧客仕様との照合 | 納入仕様書・校正証明・立会い試験 |
11-1. 基板・ハーネスの単体検査
製造直後に行う検査で、製造不良を早期に発見することができます。後工程に進む前に問題を発見できるほど、修正コストは小さく済みます。
- 外観検査:ハンダ不良(ブリッジ・不濡れ)、部品の誤実装・向き違い、シルク印刷の確認
- 導通検査:テスター等でコネクタ間の信号経路が正しくつながっているかを確認
- ハーネス検査:両端コネクタのピン対応が仕様書通りか、シールド処理が意図どおりかを確認
11-2. BOX 単体の機能検査
基板・ハーネスを組み込んだ BOX 全体として、設計意図どおりに動作するかを確認する検査です。
- Relay導通確認:制御信号を与えた際に、正しいリレー接点がON/OFFされているかを確認
- 信号経路確認:各コネクタ間で信号が意図した経路を通っているか、クロストークがないかを確認
- 保護回路動作確認:過電圧・ESD等の保護素子が回路上に正しく実装されているかを確認(実際に印加して試験する場合は条件を慎重に設定する)
- 電源系確認:BOX内部に電源回路がある場合、出力電圧・リプル・立上がり時間を確認
11-3. システム結合検査
PXI シャーシ・インターフェースBOX・DUT を接続した状態で行う検査です。各単体では問題なくても、接続したときに初めて現れる問題(GND ループ・インピーダンス不整合・干渉等)を確認します。
- 信号レベル確認:実際の計測モジュールから信号を出力し、DUT側で期待どおりのレベルが得られるか
- ノイズ・クロストーク確認:使用しないチャネルに意図しないノイズが乗っていないかを確認
- 絶縁確認:高電圧経路とその他の信号間の絶縁が仕様を満たしているかを確認
- 温度・長時間動作確認:必要に応じて、一定時間動作させた後の特性変化を確認
よくある問題
- 単体では問題なかったのに、接続するとGNDが共有されてノイズが混入した
- ケーブルを接続する向きや順番によって、計測値が変化した
- 長時間動作後にリレーの接触抵抗が変化し、測定値がドリフトした
11-4. 受け入れ検査(FAT)
Factory Acceptance Test(FAT)とは、顧客立会いのもとで仕様書に基づいた検査を行い、納入可否を判断する試験です。計測SI案件では、顧客が持参したDUTや基準品を使って検査する場合もあります。
- 仕様書との照合:I/O一覧表・システム仕様書に記載されたすべての項目を確認
- 校正証明の確認:使用する計測器の校正状態と有効期限を確認
- 操作手順の確認:顧客オペレータが実際にシステムを操作して問題がないかを確認
- ドキュメントの確認:回路図・BOM・取扱説明書・保守手順書が揃っているかを確認
FAT前に準備しておくこと
FATで確認する項目と合否基準を顧客と事前に合意しておくと、当日の議論が少なくなります。想定される問題点とその対処方法を事前に検討しておくと、当日のトラブル対応がスムーズです。
ポイント
- 検査は製造段階・BOX単体・システム結合・受け入れの4段階で考える
- 早い段階で問題を発見するほど、修正コストは小さくなる
- 検査結果は記録として残し、後のトレーサビリティと保守に役立てる
- FAT前に検査項目と合否基準を顧客と合意しておくことが重要
12. ドキュメント:設計と運用をつなぐ
インターフェース BOX は納入して終わりではなく、顧客現場で運用・保守されていきます。その期間を支えるのが、設計者が残すドキュメント群です。本章では、計測 SI 案件で残すべきドキュメントの種類と、それぞれの目的を整理します。
12-1. ドキュメントの全体像
ドキュメントは「設計フェーズで作るもの」「製造・検査フェーズで残すもの」「納入時に顧客へ渡すもの」「保守フェーズで参照するもの」の4つに分けて考えると整理しやすいです。同じ内容でも、誰が何のために読むかによって書き方が変わります。
| フェーズ | 代表的なドキュメント | 主な読み手 |
|---|---|---|
| 設計 | 構成図・I/O 一覧表・回路図・基板図 | 設計者・レビュアー・製造担当 |
| 製造・検査 | BOM・組立指示書・検査記録・校正証明 | 製造担当・検査担当・品質管理 |
| 納入 | システム仕様書・取扱説明書・操作手順書 | 顧客オペレータ・顧客技術者 |
| 保守 | 保守手順書・トラブルシュート集・改版履歴 | 保守担当・現場SE |
12-2. 設計ドキュメント
設計フェーズで作成するドキュメントは、本書のこれまでの章で取り上げた構成図・I/O 一覧表・回路図・基板図などが該当します。これらは「設計の意図」を残すためのもので、レビュー・変更管理・後の改造にも使われます。
- 構成図:システム全体のブロック構成と接続関係を示す(第3章)
- I/O一覧表:すべての信号の仕様を一元管理する(第4章)
- 回路図・基板図:BOX内部の電気的・物理的実装を示す
- ハーネス図:ケーブルの物理的な製造仕様を示す(第6章)
12-3 .製造・検査ドキュメント
製造段階で作るものは、量産時の再現性と品質保証のために重要となります。
- BOM(部品表):使用部品の型番・数量・代替品を一覧化
- 組立指示書:基板実装・ハーネス組立の手順と注意点
- 検査成績書:第11章で実施した各検査の結果記録
- 校正証明書:使用した計測器の校正状態を示す書類
検査記録の保存
検査記録は出荷後も一定期間保存します。顧客から問い合わせがあった際の原因調査に役立ちます。電子データと紙の両方で保管すると、長期保存の安心感が高まります。
12-4. 納入時ドキュメント(顧客向け)
顧客へ渡すドキュメントは、設計者向けの資料とは目的が異なります。顧客オペレータが安全・確実にシステムを使えることが第一であり、専門用語の使いすぎや内部実装の詳細は不要なことも多いです。
- システム仕様書:顧客との合意事項を明文化したもの。検収基準にもなる
- 取扱説明書:日常操作の手順と注意事項を、現場オペレータの目線で記述
- 操作手順書:典型的な測定シーケンスをステップごとに記述
- 緊急時対応手順:異常発生時の停止方法・安全確認・連絡先
顧客向けドキュメント 書き方のポイント
- 図や写真を多めに使い、文章だけで説明しようとしない
- 実際の操作画面・コネクタ配置を示すと、現場での理解が早い
- 「やってはいけないこと」も明示しておくと、誤操作によるトラブルを減らせる
12-5. 保守ドキュメント
納入後数年〜十数年の運用を支えるためのドキュメントです。納入時には不要に思えても、トラブル時や改造時に「あって良かった」と感じるものが多い。
- 保守手順書:定期点検・消耗品交換の手順とサイクル
- トラブルシュート集:過去に発生した不具合と原因・対処法
- 改版履歴:基板Rev.変更・部品変更・ソフトウェア更新の記録
- 廃番情報:使用部品の廃番・代替候補リスト
12-6. ドキュメント管理のコツ
作るだけでなく、必要なときに探せる状態を保つことがドキュメント管理の本質です。
- ファイル命名規則を統一する(プロジェクト名_文書種別_リビジョン_日付など)
- 回路図・BOM・基板データはセットでバージョン管理する
- 最新版がどれかを必ず明示し、旧版はアーカイブフォルダへ
- 索引(インデックス)や目次を作っておくと、後で探すときに楽になる
ドキュメントが残らない・更新されないと…
- 数年後の改造時に、現物と図面が一致せず原因調査に時間を費やす
- 退職や担当変更時に、設計意図が失われる
- 顧客現場でトラブルが起きても、当時の事情を知る人が誰もいない
ポイント
- ドキュメントは設計・製造・納入・保守の4フェーズで考えると整理しやすい
- 顧客向け資料は設計者向けと目的が違う。読み手を意識して書く
- 「作る」だけでなく「探せる状態を保つ」ことがドキュメント管理の本質
- ドキュメントが残ることが、長期運用される計測システムの安心感につながる
13. おわりに:計測SIエンジニアに求められる視点
本ガイドを通じて、PXIインターフェースBOX設計の全工程を解説してきました。最後に、計測SIエンジニアとして大切にすべき視点を整理します。
良い図面の3条件
[誰でも分かる]
[保守できる]
[配線できる]
この3条件は構成図・I/O表・ハーネス図・ラック図すべてに共通します。設計レビューに出す前に、自分の図面をこの3条件で審査する習慣をつけましょう。
統合スキルのレイヤー構造
計測SI エンジニアには、以下の5階層を統合的に理解することが求められます。下層ほど地味で評価されにくいが、システム品質を左右する本質的なスキルです。
| レイヤー | 領域 | 理解すべき内容 |
|---|---|---|
| Layer 5 | PXI Platform | シャーシアーキテクチャ、トリガ/クロック分配 |
| Layer 4 | Software | LabVIEW / TestStand、シーケンス、エラー処理 |
| Layer 3 | Hardware/RF | 計測器の限界値、インピーダンス整合、VSWR |
| Layer 2 | Invisible Infrastructure | GND設計、EMC、シールド処理 |
| Layer 1 | Documentation | ラベル、構成図、保守手順 |
見えにくい基礎層こそ価値を生む
Layer 1(ドキュメント)とLayer 2(GND/シールド)は、できて当たり前と思われがちで評価されにくい。しかし、案件の品質はこの下層レイヤーで決まります。上層だけ強いエンジニアは「動かせる」が「測れない」システムを作ってしまいます。
ポイント
- 図面の合格基準は「誰でも分かる/保守できる/配線できる」の3条件
- Layer 1〜5の5階層を統合的に理解し、案件全体を一気通貫で語れる視点が最大の価値を生む
推奨ツール
| ツール | 用途 | 備考 |
|---|---|---|
| Visio | 構成図・フロー図 | Microsoft 365 と親和性高い |
| draw.io (diagrams.net) | 構成図(無料) | クラウド共有・Git管理可 |
| SOLIDWORKS Electrical | 本格電気CAD・3D連携 | ラック・筐体との連携が強力 |
| AutoCAD Electrical | 本格電気設計 | 自動車・産業機械系で広く採用 |
| KiCad | PCB設計 | オープンソース。SI 周辺基板設計に有用 |
| Excel | I/O 表・BOM・見積 | 最強の現場ツール |
用語集
| 用語 | 意味 |
|---|---|
| PXI | PCI eXtensions for Instrumentation。計測用モジュラープラットフォーム規格 |
| PXle | PXI Express。PCI Expressベースに拡張したPXI上位規格 |
| DMM | Digital Multi Meter。高精度DC/AC電圧・電流・抵抗計 |
| SMU | Source Measure Unit。電圧/電流 Force+Sense 統合計測器 |
| DAQ | Data Acquisition。アナログ/デジタルI/O計測モジュール |
| DUT | Device Under Test。被試験物 |
| ATE | Automatic Test Equipment。自動試験装置 |
| FG | Frame Ground。筐体GND |
| AGND | Analog Ground。アナログ信号GND |
| VSWR | Voltage Standing Wave Ratio。電圧定在波比 |
| EMC | Electromagnetic Compatibility。電磁両立性 |
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