航空宇宙・防衛分野を支える試験・計測システム
ATE(自動試験装置)とシステムインテグレーションの役割

航空機や人工衛星、防衛装備品は、一つの電子機器の故障が安全性やミッションの成否に直結します。過酷な環境下で長期にわたり確実に動作させるために、開発・製造・運用・保守の各工程を支えているのが、ATE(Automatic Test Equipment:自動試験装置)を中核とした試験・計測システムです。
航空宇宙・防衛分野で試験・計測が重要な理由

航空宇宙・防衛機器は、自動車や一般産業機器と比較して極めて過酷な環境で使用されます。極低温から高温までの温度変化、強い振動・衝撃、高高度・低気圧・真空環境、宇宙放射線、強い電磁ノイズ(EMI/EMC)―これらの条件下でも長期間安定して動作することが求められます。
加えて、一度打ち上げられた人工衛星や運用中の航空機・防衛装備品は容易に交換や修理ができません。そのため開発段階から製造、出荷、定期整備に至るまで、一貫した品質保証体制が不可欠であり、これを実現する手段が試験・計測システムです。
ATE(自動試験装置)とは

ATEとは、被試験装置(UUT:Unit Under Test)に信号を入力し、その応答を自動的に測定・解析・判定する試験システムです。代表的な試験対象には、フライトコンピュータ、ミッションコンピュータ、レーダーシステム、電子戦(EW)装置、航空機・衛星通信装置、慣性航法装置(INS)、GPS受信機、電源ユニット、アクチュエータ制御装置、センサモジュール、人工衛星搭載電子機器、無人航空機(UAV)制御装置などが挙げられます。
ATEが評価するのは正常動作だけではありません。異常状態やフェイルセーフ動作までを自動的に評価できる点が、一般的な検査工程との大きな違いです。
ATEを構成する主要機器
航空宇宙向けATEは、多数の試験・計測機器を統合して構築される。代表的な構成要素は次のとおりです。
| 構成機器 | 主な役割 |
|---|---|
| デジタルマルチメータ (DMM) | 電圧・電流・抵抗・導通・周波数など基本的な電気特性を測定 |
| オシロスコープ | 高速デジタル信号やアナログ波形の解析 |
| 任意波形発生器 (AWG) | センサ信号や制御信号を模擬し、実動作環境を再現 |
| DC電源・電子負荷 | 電源変動試験、消費電力測定、保護回路試験 |
| データ収集装置 (DAQ) | 多チャンネルのアナログ・デジタル信号を高速収集 |
| RF・マイクロ波計測器 | スペクトラムアナライザ、ベクトルネットワークアナライザ、シグナルジェネレータ、ベクトルシグナルアナライザ等による高周波機器評価 |
航空宇宙特有の通信試験
航空宇宙・防衛分野では、民生機器とは異なる通信規格が数多く使用されています。代表的なものとして MIL-STD-1553、ARINC 429、ARINC 664(AFDX)、CAN Aerospace、SpaceWire、SpaceFibre などが挙げられます。ATEはこれらの通信信号を生成・解析し、通信品質、エラーフレーム、タイミング、応答時間、異常動作などを評価します。
スイッチマトリクスによる試験の自動化
航空宇宙機器には数百から数千本の信号線が接続されており、これらを人手で測定器に接続し直すことは現実的ではありません。そこでATEではスイッチマトリクスを用いて測定器を自動的に切り替え、多数の試験ポイントの高速測定、ヒューマンエラーの削減、試験時間の短縮、設備の共通利用を実現しています。
Interface Test Adapter(ITA)の役割
航空宇宙機器は装置ごとにコネクタ形状や信号配置が異なります。ATE本体を共通化し、装置ごとにInterface Test Adapter(ITA)を交換する構成とすることで、多種多様な電子機器に対応できます。ITAはATEシステムの柔軟性を支える重要な構成要素です。
Hardware in the Loop(HIL)
近年ではATEとHIL(Hardware in the Loop)を組み合わせた試験も一般的になっています。飛行状態やセンサ情報をリアルタイムに模擬することで、飛行制御装置、アクチュエータ、姿勢制御装置などを実飛行に近い条件で評価することができます。この手法は航空機に限らず、人工衛星やロケット、防衛装備品の開発でも広く利用されています。
環境試験との連携
航空宇宙機器は、恒温恒湿試験、振動試験、衝撃試験、EMI/EMC試験、高度シミュレーション、電源変動試験など様々な環境試験設備と組み合わせて評価されます。ATEはこれらの設備と同期し、自動試験シーケンスを実行します。
今後の試験・計測技術
航空宇宙・防衛分野では電子機器の高速化・高性能化が進んでおり、今後のATEには以下のような対応が求められています。
- AIによる異常診断
- デジタルツインとの連携
- 高速シリアル通信評価
- RF・ミリ波評価
- 光通信・シリコンフォトニクス評価
- 試験データの自動解析
- クラウドによる試験データ管理
システムインテグレーションの重要性
航空宇宙・防衛向けATEは、市販の測定器を組み合わせるだけでは完成しません。被試験装置に合わせて、試験仕様の策定、計測器の選定、PXI/PXI Expressなどのプラットフォーム設計、スイッチマトリクス設計、Interface Test Adapter(ITA)の設計・製作、制御ソフトウェア開発、自動試験シーケンス構築、試験データ管理・レポート作成までを一つのシステムとして構築する必要があります。ここに試験・計測システムインテグレーションの価値があります。
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