遺伝子検査装置「ジェノパターンアナライザGP1000」の開発

LabVIEWとPXI の採用で開発コスト60%削減、遺伝子検査装置「ジェノパターンアナライザGP1000」の開発

株式会社ペリテックが過去に開発した遺伝子検査装置の開発事例を紹介します。

背景

近年バイオテクノロジーの進歩は目覚しく、新製品が次々に発表されています。熾烈な競争の中では新しいアイデアを取り込んだ製品をすばやく開発することが重要となっています。今回、ヤマト科学株式会社様の遺伝子検査装置・ジェノパターンアナライザGP1000の開発に参加させて頂きました。その過程で新しい開発手法をヤマト科学株式会社様と共同で編み出しましたので、その内容について紹介いたします。

課題

1.新しい開発手法の考案

6ヵ月後に開催される展示会“バイオEXPO”に新製品を出品することが前提だが、従来の手法では開発から6ヵ月間で展示会に出品する製品を開発することは困難であり、新しい開発の手法を考案する必要があった。

2.新しい開発手法を実現するツールの選択

1.機能を実現し性能を確認する、2.試作品を製作する、3.展示会へ出品する、の3つの段階で開発しなければならない。開発途中に方式変更などが予想されるので、それらにフレキシブルに対応するハードウェアとソフトウェアのツールを探す。

3.展示会に出品して魅力あるレベルの完成度が必要

ソリューション

1.新しい開発手法の考案

従来の新製品開発は、その前提となるモデルがあり、それを手本として開発するのが普通の手法であ
った。しかし今回は、その方法では時間がかかりすぎて6ヶ月という短期間で開発するのは困難、そこ
で次のような開発手法を考えた。

  1. 仮のハードウェアでソフトウェアを開発し試作機を作る。
  2. 試作機でアルゴリズム、性能などを試してみる。
  3. 試作機で発生した問題点を解決し機能を実現する。
  4. 試作機を展示会に出す実際の装置に置き換える

2.新しい開発手法を実現するツールの選択

過去にヤマト科学様では、LabVIEWで装置のアプリケーションを開発した実績があり、非常に
短期間で完成した経験があった。そのような経緯もありソフト(開発言語)はLabVIEWが候補に
上がった。仮のハードはNI製品のPXIが候補に上がった。PXIはメーカーを超えた標準規格であ
り、温度計測、アナログ入力、アナログ出力、デジタルI/O、カウンタなどのボード群からなり今回
の装置に必要な機能は全て揃っている。すぐ入手可能である。開発言語LabVIEWのドライバも揃
っている。試作機を作るには、LabVIEWとPXIの組み合わせがもっといいソリューションであ
るという結論に達した。

3.展示会に出品して魅力のあるレベルの完成度が必要

LabVIEWで作ったソフトを展示会に数度出展した実績があるが、グラフィックは好評であった。
LabVIEWの画面は簡単にできる割には最終製品となっても上品である。PXIは試作の装置として最適であり、そのまま最終製品になっても問題のないレベルである。問題はコストだが、少量生産にはイニシャルコストが不要なので逆に割安となる。そして試作機をそのまま展示会に出品しても問題ないという結論に達した。

装置の概要

1.DNA解離波形の計測

試作開発する遺伝子検査装置は、細菌・ウィルスその他あらゆる遺伝子に固有の塩基配列をDNA解離波形として計測します。具体的には設定された温度制御を実行しながらサンプルの蛍光強度を電圧として計測します。

2.DNAパターンの解析

アドジーン社が開発したジェノパターン法によりDNAの解離波形を図形上のパターンとして認識し、全体的な比較・同定を行います。具体的には既知のサンプル(結核菌など)を計測してマスタ登録しておき、未知サンプル計測後のグラフ波形をマスタ波形と比較して同定します。

PXIを使用した試作機
PXIを使用した試作機

試作開発におけるハードウェアの要求仕様

1.制御信号

  • PID温度制御用 温度計測 2点(熱電対もしくはRTD)
  • PID温度制御用 電流制御 2点(4~20mA)
  • 温度計測 4点 (熱電対もしくはRTD)
  • 電圧計測 3点 (±5V)
  • デジタル I/O入力4点 出力10点

2.機能と性能

  • ペルチェ素子をPID制御してオペレータが設定した温度制御を実現
  • 0.1℃の温度変化を感知
  • 蛍光強度計測(サンプル数48個)を200mSECで実行
  • 蛍光強度の微分グラフをリアルタイムで表示

試作開発におけるソフトウェアの要求仕様

1.サンプル設定画面

  • 48個のサンプルについて、名称・計測 ON/OFF・蛍光色素名・グラフ表示色を設定可能

2.温度制御設定画面

  • 前処理温度制御(目標温度・保持時間・温度制御勾配)を8ステップ設定可能
  • 計測温度制御(開始終了温度・温度制御勾配・蛍光計測 ON/OFF)を7ステップ設定可能

3.蛍光強度測定画面

  • 温度制御グラフをリアルタイムで表示
  • 蛍光強度グラフをリアルタイムで表示
  • 蛍光強度微分グラフをリアルタイムで表示
  • 制御温度数値と蛍光強度数値をリアルタイムで表示

4.メンテナンス画面

  • ペルチェ駆動電圧グラフをリアルタイムで表示
  • 温度制御PID値を設定可能

5.DNAパターン解析画面

  • アドジーン社が開発した解析処理の実行
  • 解析結果表とグラフを Excel ファイルとして保存

要求仕様を実現するために採用したNI製品

PXI-1000B(8スロットシャーシ)

最近のPCはPCIボードの搭載枚数が少なく、また拡張BOXを採用すると省スペースとならないためPXIの8スロットシャーシを選択しました。実際に搭載した計測ボードは4枚ですが、試作開発ですので制御方式が変更になり、計測ボードが追加されることを考慮する必要があったからです。

PXI-4351(高分解能温度・電圧計測)

サンプル近傍の温度4箇所を計測します。また、風速センサ電圧、ペルチェ素子制御電圧の計測を行います。

PXI-6527(24入力・24出力デジタルI/O)

計測サンプル48個の蛍光LEDを順次点灯させるためのアドレス信号と励起ドライブ信号の出力、装置の状態監視、制御状態の出力を行います。

PXI-6030E(マルチファンクションDAQ、16BIT分解能)

蛍光強度の計測で使用。最初、蛍光強度は電圧計測で実施していましたが、ノイズ対策のためカウンタを使用した周波数計測に変更になりました。

システム構成(試作機)
システム構成(試作機)

マルチファンクションDAQの効用

試作開発には、マルチファンクションDAQの採用が有効です。DNAパターン解析をするための重要な計測がDNA解離波形の計測です。最初、電圧を計測して平均を算出していたのですがノイズの影響を払拭できず、周波数計測に変更となりました。最大1MHzであり、DAQのカウンタは内部クロック20MHzを搭載しているので計測可能と判断しましたが問題は処理速度です。蛍光強度計測(サンプル数48個)を200mSecで実行するためには、1回の周波数計測を2mSecで完了しなければなりません(他に蛍光LEDのアドレス切り替え処理が存在するため)。周波数計測にはカウンタのゲート開時間が必要でありさらにプログラムの処理が介在するため、2mSecで完了できるのか不安でした。しかし、その不安はサンプルプログラムを実行してすぐに解消されました。カウンタのゲート開時間を1mSecで実行しても全体の処理は2mSec程度で完了します(ドライバが高速である)。精度も±1カウントで完璧です。結果としてハードウェアの追加、計測ボードの変更を実施することなく迅速に対応することができました。
外部にカウンタ回路を追加製作した場合と比較すると1/20のコスト効果が得られたと思います。

LabVIEWによるソフトウェア要求仕様の実現

カスタムアイコンの設定

アプリケーションビルダを使用して実行ファイルを作成するとき、カスタムアイコンを設定することができます。カスタムアイコンを設定してアプリケーションソフトウェアらしくなりました。

起動画面の表示

よりアプリケーションソフトウェアらしくするために、プログラムのメイン画面を表示する前に3秒間だけ起動画面を表示させています。これはLabVIEWからDLLをコールする関数を使用して実
現しました。

起動画面と蛍光強度測定画面
起動画面と蛍光強度測定画面

タブ制御器を使用した画面設計

LabVIEWからタブ制御器が追加されました。タブ制御器を使用すれば画面の数と意味が一目でわかります。また、タブをクリックすれば画面が切り替わるので使いやすく、切り替え処理を作成しなくても高速に切り替わります。タブ制御器の中にタブ制御器を置くことも可能で、グラフを複数表示する場合非常に有効です。今回のプログラムでは6個の大画面をタブで切り替え、さらに蛍光強度測定画面において5個の小画面をタブで切り替えて表示させています。

サンプル設定画面と温度制御設定画面
サンプル設定画面と温度制御設定画面

タブの表示・非表示機能

メンテナンス画面のタブは通常の操作では必要ないので、非表示にしてプログラムを起動させています。必要なときに特殊キー操作により表示させることにしました。

波形チャート、波形グラフ、XYグラフ

メンテナンス機能として必要なペルチェ素子の電圧計測は、バッファに残っている過去データを必要なときに表示できればいいので波形チャートを使用しました。計測中のリアルタイム表示にはX軸を温度として波形グラフを使用し、パターン解析結果をマスタ波形と比較表示するグラフにはXYグラフを使用しました。

微分関数、ローパスフィルタ、ピーク検出

蛍光強度微分グラフをリアルタイムで表示する機能では、LabVIEWの微分関数とローパスフィルタを使用しています。DNA解離波形のピーク検出もLabVIEWの関数を採用しました。

解析処理の実行とExcelの起動

アドジーン社が開発した解析処理(ジェノパターン法)は、LabVIEWからActiveXで起動し、結果をLabVIEW画面に表示しています。またLabVIEWからExcelを起動して解析結果表とグラフをExcelファイルとして保存することができました。

印刷プレビュー

蛍光強度微分グラフの印刷プレビュー表示も実現しました。印刷画面用VIを作成し“呼び出された
ら画面を表示”に設定して印刷する前に印刷画面を確認できるようにしています。

まとめ

新製品の開発を行うとき、試作ハードウェアを製作し、並行してソフトウェアの開発を行います。結合テストを行って見つかった問題点をいち早く解決しなければハードウェアとソフトウェアの開発コストは増すばかりです。試作ハードウェアの短期製作、運用ソフトウェアの短期開発、問題点の短期解決にLabVIEWとPXIの組み合わせは強力なツールとなります。そして、その試作装置を新製品として展示会に出品しても十分魅力あるレベルの完成度が得られます。本開発において「LabVIEWとPXIを採用して開発コストを60%削減することができた」とヤマト科学株式会社様から伺っております。東京ビッグサイトで行われた展示会、“バイオEXPO”に遺伝子検査装置「ジェノパターンアナライザGP1000」を出品することもできました。

ジェノパターンアナライザGP1000
ジェノパターンアナライザGP1000