NI SwitchをLabVIEW RTで使用したICテスタの開発
株式会社ペリテックが過去に開発したNI SwitchをLabVIEW RTで使用したICテスタの開発事例を紹介します。
背景
電子部品メーカー様より電子部品・耐久試験機、開発の引き合いがありました。この試験装置は耐久試験で行うパルス幅計測と部品の抵抗値、駆動電圧値、設定電圧値の計測を行います。通常この種の試験は市販のICテスターを使うのが一般的です。しかし今回、ICテスターは数千万円と高価なのと、その一部の機能しか必要ないので、ICテスターの10分の1の費用で作れないかとの御相談でした。弊社はPXIとNI-SwitchでICテスターの置き換えの実績があるので、挑戦することにしました。
課題
1.リアルタイム性
DUTに電圧印加と計測を一定間隔(最短30ms)でかつ最大1千万回の繰り返しを正確に保障する必要があります。その為マウス・キーボード・画面表示処理などによって試験タスクが中断されないことが要求されます。
2.コンパクト性
電圧計測6箇所と抵抗計測4箇所の計測ポイントをスキャナーで切り替えて測定する必要があります。ノイズや測定精度を上げるため、最短距離で計測を行う必要があり、スキャナー、ケーブルを含めてコンパクトでなければなりません。
3.パルス幅計測
コイル駆動後に発生する応答パルス幅の計測とコイル駆動状態確認の処理を30ms以内に行う必要があります。部品2個別々に駆動間隔が設定でき、かつ同時に試験するためこの処理は並列処理にすることが必須となります。これらが可能な計測ボードとドライバプログラムが必要です。
4.試験結果の保存と検索
試験結果はデータベース(Microsoft ACCESS)ファイルに保存し、試験結果の検索を測定日、ロット番号、シリアル番号、測定者、試験名で行えることが必要です。
ソリューション
1.リアルタイム性
Windowsではリアルタイム性が劣るので、PXIシャーシにRTコントローラを搭載してLabVIEW Real-Time上で試験プログラムを動作させることにしました。RTコントローラにはマウス・キーボード・ディスプレイを接続せず、試験の状態表示と結果表示はLANで接続された制御PC側で行います。
2.コンパクト性
LabVIEWからNI-Switch(スイッチモジュール)とNI-DMM(デジタルマルチメータ)がLabVIEW Real-Time上でサポートされました。このボードをPXIに搭載し、NI-Switchで計測ポイントを切り替えて、NI-DMMで抵抗値と電圧値を計測することにしました。開発当初、LabVIEWとLabVIEW Real-Timeモジュールは、日本語版がまだ出荷されていないため、英語版を使用することになりました。
3.パルス幅計測
8チャンネルのカウンタボード(PXI-6602)をPXIに搭載して計測することにしました。このボードは最大32ビットのDIOも搭載しているため、駆動パルス(出力)やポジション(入力)をこのボードのみで処理することができます。また、カウンタボード(PXI-6602)は、8ビットグループではなく、ビット毎に入出力が設定できますので用途に応じて柔軟に対応できます。
4.試験結果の保存と検索
試験結果をデータベース(Microsoft ACCESS)に保存するため、データベースコネクティビティツールセットを採用いたしました。結果の検索はデータベースの検索機能を使用すれば、検索プログラムを作成する必要はなくなります。データベースコネクティビティツールセットをインストールすれば、データベース(Microsoft ACCESS)を操作するための関数がすべてLabVIEWの関数パレットに登録されます。
ハードウェアの仕様
1.制御信号
- クロック出力(カウンタ2 ch)
- 駆動パルス(デジタル出力2ビット)
- 駆動エラー信号(デジタル入力4ビット)
- ポジション(デジタル入力2ビット)
2.計測信号
- 駆動応答パルス幅(カウンタ4 ch)
- 駆動回数カウント(カウンタ2 ch)
- 応答電圧(2系統)
- リファレンス電圧(4系統)
- コイル抵抗(2系統)
- フォトインタラプタ抵抗(2系統)
ソフトウェアの仕様
1.リファレンス電圧設定
コントロール基板のボリュームを調整してリファレンス電圧の設定を行います。
2.抵抗測定
コイルとフォトインタラプタの抵抗値を計測します。
3.最低駆動電圧測定
駆動電圧を上下させて、駆動エラーが発生する電圧を測定します。
4.応答速度測定
駆動周期と駆動回数にしたがってコイルを駆動し、応答パルス幅(応答速度)の平均値を算出します。
5.耐久試験
駆動周期と駆動回数にしたがってコイルを駆動します。応答パルス幅(応答速度)の平均値は10万回毎の平均値を算出しま
す。駆動エラーが発生した場合は、発生情報と復帰情報も結果として保存します。
6.測定値表示
データベース(Microsoft ACCESS)ファイルから測定値を読み出して、LabVIEWの画面に表示します。検索の設定と表示も
LabVIEWの画面で行います。
開発のポイント
試験状態の表示と結果の保存
制御PC(WindowsXP)上で動作するプログラムとRTコントローラ上で動作するプログラムを開発しました。試験の開始と停止、実行状態の表示は制御PC側のプログラムで行います。RTコントローラのプログラムとはTCP/IP通信でデータの送受信を行います。データベースへの結果保存も制御PC側で行っています。
パルス幅計測の並列処理
駆動パルスを出力して応答速度を計測する一連の処理関数を作成しました。この関数を2個並列に動作させるのですが、駆動周期最速の30 msに処理を追従させるために、関数の設定を「再入実行」に設定してあります。
仕様を実現するために採用したNI製品
- LabVIEW 日本語版
- LabVIEW Real-Time モジュール英語版
- LabVIEW データベースコネクティビティツールセット
- PXI-1042(PXI 8スロットシャーシ)
- PXI-8176(RTコントローラ)
1.2 GHz PentiumRプロセッサを搭載しています。LabVIEW Real-Timeモジュールを使用してプログラムを開発しLAN接続によって開発プログラムをダウンロードします。ダウンロード後「自動実行」に設定しておけば、次からは電源を入れるだけで開発プログラムが起動されます。 - PXI-4070(デジタルマルチメータ)
抵抗計測は4線式で行います。付属のNI-DMMドライバ関数を使用します。 - PXI-6602(カウンタ)
8チャンネルのカウンタと8ビットのデジタルI/Oを使用しています。 - PXI-2503(スイッチ)
メカニカルリレータイプのスイッチボードです。付属のNI-Switchドライバ関数を使用します。 - TB-2605(PXI-2503用端子台)
スイッチボードのコネクタに直接差し込んで使用する端子台なのでケーブルは不要です。




まとめ
NI-SwitchとNI-DMM、PXIを使用して、コンパクトでかつノイズに強い試験装置を開発することができました。特に今回NI-SwitchとNI-DMMがLabVIEW Real-Time上でサポートされましたのでICテスターを構成する時に必要とするパーツは全て揃ったことになります。これは従来のICテスターの必要な機能を、自作回路無しにNI製品群だけで構成することを意味します。同時に市販のICテスターの10分の1程度の費用で構成することができます。
最後に従来の方法とNI-SwitchとNI-DMMを使用した場合の比較をまとめておきます(図5)。
| NI-SwitchとNI-DMM | 外部接続のマルチメータと自作スイッチBOX | |
|---|---|---|
| 購入コスト | ◎ | △ |
| プログラム開発コスト | ◎ | × |
| 配線ノイズの影響 | ◎ | △ |
| コンパクト性 | ◎ | × |


